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循環


 青。白。
 ぼくが最初に見たそれは、とても広く、鮮やかで、それでいてどこか無機質だった。
 周りを見ると、茶色の細長いものがいくつも連結されているもの、筒のような硬そうなもの、そして、すこし背の低いオレンジの建物があった。
 その時。
 突如ぼくはなにかに吸い込まれた。視界がブラックアウトし、なにも見えない。見えない。見えない。


 光があった。
 まぶしすぎるそれに最初は戸惑ったが、次第に周りの景色がはっきりしていく。
 目の前には炎があった。下を見ると、周りの芝より少し高い芝が。右手には剣が。左には……うようよと、黄色い髪の、汚らしい男が沢山いた。何匹いるだろう。5?いや、もっとだ。10。いや、それ以上かもしれない。
 そいつらは、俺と同じ剣を持っていた。涎を垂らした汚らしい男達は、猫背でうめき声を上げながらそこらを徘徊していた。
 なんだこの感情は。俺は、言いもしれない、そこから逃げ出したくなるような、そいつらを踏み潰したくなるような感情に苛まれた。
 帰ろう。ここにはいたくない。帰ろう。どこへ? どこだっていい。
 俺はそこから逃げようと、足を森の方へ動か――せなかった。
 壁があるわけではない。なにもない。なにもないのだが、出れない。足が震えてそこから動けない。足が、動かないのだ。
 同時に、俺の直感はあることを告げていた。

 出たら、死ぬ。

 いや、そんなことはない。なぜ俺が死ななければならんのだ。そんなことで、たったそんなことで、どうして、どうして俺が死ぬというのだ。
 震える足を押さえつけ、俺は無理やり、それは無理やりと形容するには些か不釣り合いなほど激しいものであったが、そこから離れた。
 なんだ出れるじゃないか。拍子抜けだ。
 俺は後ろを一瞥した。やはり汚らしい男が、まるで虫のようにわらわらと群集している。
 離れよう。離れるんだ。
 俺は森へ走った。どこへ行く? 宛なんかないが、走る。走る。走る。
 ふと、違和感。
 右手を見ると、剣が無かった。
 いや、違う。
 手首がなかった。
 きづいた瞬間、頭から何かがおちた。狭まった視界で落ちたものをみると、それはどろどろに溶けた目だった。
 次に左て、右足、どんどん身体がバラけていく。痛みはない。いたみなど感じないが、それがなお更、おれの恐ふをぞうふくさせた。
 あたまがおちた。からだがとけて、ぴんくいろのえきたいにかわっていく。ぼくのいしきもとけていく。みんなみんなとけて、とけて、そして――

  ――――――――――――――――――

 気がつくと、また青と白が見えた。
 だけど、周りが以前と違う。茶色だった連結されたものは、黒く巨大で、だけど少し柔らかそうなものに変わっていて、筒のような硬そうなものは、1回り大きくなっていて数も増えていた。そして奥の方には、頂上にピンクの髪の子がいる高い塔を見つけた。
 ぼくは思い出す。ぼくは、たしか死んだはずだと。どろどろに溶けて、痛みもなく、消えたはずだと。
 突如、ぼくの身体が再びなにかに吸い込まれた。視界が再びブラックアウトする。暗い。見えない。見えない。見えない。



 目を開けると、また、炎があった。下には芝、右手には……剣じゃない。それはしなった木の両端を細い糸で結んだ、いわゆる弓だった。左には……いた。汚らしい、あいつが。
 私は再びあの嫌悪感を感じた。逃げ出したくなった。でも、思い出す。私は溶けたじゃないか。ここから出たら、溶けるんだ。つまり、死んでしまうんだ。
 私は、諦めにも似た感情を覚えた。嫌悪感はある。あるけども、命を粗末にしてまで逃げるほどではない。
 ふと、周りを見る。霧がかかった頭がだんだんと晴れていく。そこで、気づく。
そこには黄色の男以外に、ピンクの女もいることに、気づく。
 手には私と同じ弓、顔にはそばかすがあって、目は少し小さく、愛想のない表情をして俯いていた。
 よく見ると、それは1人ではない。黄色の男と同じように、同じ顔がいくつもあった。その光景はとても気味が悪かった。そこには男と女、二種類の顔しかなかったのだ。
 その嫌悪感は、最初に私が黄色の男を見た時に覚えたものと同系統……いや、同じだ。同じものだった。
 なんだここは。なんなんだ。
 そんな疑問が頭を旋回した。頭に疑問が次々と浮かぶ。なにもわからない。知らない。覚えがない。
「みなさーん!戦いの時間ですよー!」
 声が、聞こえた。
 それは女性の声で、とても高らかに、だが無機質にその場に響いた。
 瞬間、黄色の男が雄叫びをあげた。愛想のない女も俯くのをやめ、前を見据える。
 何が始まるんだ?
 戸惑うわたしを尻目に、黄色い男達は剣を掲げながら走る。女達もあとに続く。彼らはここから躊躇なく出ていく。
 私は驚いた。同時に記憶が蘇る。それは、自分自身が溶けて消え去ったこと。痛みもなく、死んでいったこと。
 私には彼らが、自殺願望持ちの無鉄砲な者にしか見えなかった。不思議で仕方がなかった。
 遠くに行った彼らを私は見る。だけど、誰も溶けない。溶けない? そんなはずはない。だって、私は、溶けたのだから。彼らのように、ここを出て、溶けたのだから。
 どうして? 何故? そんなことが?
 頭をぐるぐるとそんな言葉が巡る。巡るが、答えは出ない。
 突然周りが暗くなった。顔を上げると、女の子がこちらを見下げていた。
「みなさん行ってしまいましたよ? あなたも続きましょうよ」
 手を掴まれる。引っ張られる。無理やり、ここから連れていこうとする。
「やめて! ここから出たら、出たら、私溶けちゃう!! それは嫌っ、嫌なの!!」
「あははっ、なにを言ってるんですかー。溶けたりしませんよ。早く彼らのところに行きましょう。みんな待ってますよ」
 前を見る。さっきまでいた彼らが、止まって私を待っている。みんながこっちを見ている。
 無機質で、虚ろな、そんな目で。
 手を引っ張られる。抵抗するが、ダメだ、振り解けない。出る。出てしまう。出たくない、死にたくない、死にたくない。
 1歩。
 出てしまった。ああ、だめだ、なんでこんな、無理やり、なぜ、なぜ。
 女の子は、わたしの手を引き、待ってる彼らの元へと連れていく。わたしは、されるがままについていく。
 わたしが着くと同時に、彼らは一斉に向きを変え、歩く。後ろには、あの女の子がいる。逃げれない。
 ふと、思う。
 溶けていない。
 なぜ? わからない。わからないが、溶けない。何も起こらない。なぜ?
 そんな私の戸惑いなど関係なく、男はうめき声をあげながら、女は黙って弓を担ぎながら、女の子はニコニコと笑いながら、この謎の一団は行進していく。
 あの女の子。何か知ってるのではないか?
 まず私達はどこに行くんだ? 何をしに? なんのために?
 後ろの女の子は、ただ笑っている。ニコニコと、楽しそうに。これから何か良いことが起こることを予期していて、それを楽しみにしてるかのように。
「あの……」
「なんでしょう?」
 女の子は、笑顔を絶やさず私を見る。
 私は躊躇いつつ、疑問を口にする。
「これから、私達は、どこに、行くんですか」
 女の子は笑う。さっきも笑っていたけど、それよりも、深く、大きく、笑う。
「決まってるじゃないですか」

 略奪ですよ。


  ――――――――――――――――――――

 私達の一団は突如歩みを止めた。俯いていた私はそれに気付かずに、前にいた女に体をぶつける。でも、前の女はそんなこと気にしてないらしく、ある1点を見つめたまま動かない。私もそっちをを見ると、そこには村があった。
 結局女の子はあれ以上の回答をしてくれなかった。なにを聞いても何も言わなかった。質問したことと違う答えだったが、この村を見た瞬間、これからなにをするのかを直感的に理解した。
 これからここを、破壊するんだ。
「みなさーん! 準備はいいですかー?」
 男は雄叫びを上げる。女は背中から矢を取り出す。私は、何もしない。
「配置についてくださーい! 指示されたとおりに動いてくださいねー!」
 なんだ、指示とは。指示などあったのか? いつ? どこで? どんな?
 その言葉と同時に周りは動き出す。村を包囲しようとする。同時に、私の頭に浮かぶ。
『12時から行け』
 突然過ぎて、戸惑う。戸惑うが、身体は勝手に動く。動いて、配置に着く。
 合点がいった。彼らもきっとこんな風に指示を出されたのだろう。
 そして私達が村を包囲し終わった時、あの女の子の声が響く。
「攻撃、開始!!!」
 同時に、大量の黄色い男が森から出ていく。村を蹂躙しようと、略奪の限りを尽くそうと、欲望にまみれた目で走っていく。
 それにピンクの女が続く。手に弓と矢を、いつでも撃てるようにしながら走る。私もまた、続けて走り出す。身体が勝手に動くのだ。
 相手の村の大砲が動き出し、こちらの男を見据えた。そして、大砲から弾が発射される。
 1発。男は耐える。
 2発。男は絶えた。
 大砲からどんどん弾が発射される。その度に、こちらの数はどんどん減っていく。
 だが、こちらの男はまだたくさんいる。女もまだ生きている。男達が村の周りの施設に到着する。四方から弾を浴びながら、一心不乱に剣を振るう。女達も到着する。弓を構え、壁の奥の大砲を狙い、擊つ。擊つ。撃つ。だが、壊れない。大砲は何も変わらない。それでも擊つ。私もまた、それに続いて擊つ。
 私は何をやっている?
 村を破壊している。
 何故こんなことをしている?
 わからない。
 何故?
 わからない。
 遮二無二に我々は攻撃した。男も女も必死に。
 周りの施設が壊れていく。男達は、次に壁の破壊に取りかかる。その間にも、男達はどんどん死んでいく。
 その時、大砲が動きを停止し、爆ぜた。
 だが、大砲はそれだけではない。奥にはまだ同じものがある。男達と同じように、私も壁を攻撃する。そして、破壊。男はなだれ込む。村の中へと。略奪するために。
 男に続いて女が入る。最後に私が入る。
 ふと周りを見ると、他のところにも我々の部隊が入ったらしく、あらゆるところから煙が上がっていた。村の破壊は順調のようだった。
 前を見る。そこにはピンクの液体が入っている、巨大な玉があった。私は直感する。これを奪うのだ。そのために、我々はここにいるのだ。
 私はそれに矢を放つ。放つ度、開けた穴から液体がこぼれ落ちる。近くから破壊音が聞こえる。仲間が大砲を破壊したようだ。わたしはそれを横目で見つつ、それに矢を放つ。放つ。放つ。
 そして壊れた。それは液体ごと四散し、大量のピンクの液体がこぼれ落ちる。
 同時に、再び女の子の声が響く。
「戦闘、終了!!」
 どうやら村を破壊し尽くせたようだ。私はその場にへたり込む。
 良かった、生きれた、良かった……
 私はこれまでにない安堵を覚えた。生き残ることが出来て、嬉しかった。本当に、嬉しい。
 ふと。
 違和感が私を襲った。
 それは以前に感じたような、違和感。
 右手を見る。無事だった。
 左てを見る。無かった。
 右足をみる。無かった。
 もう1ど右手を見る。なかった。
 私は倒れこむ。
 まただ、なんで、どうして、いき残ったのに、なんで、なぜこんな、死にたくない、いきたいよ、いやだよ。
 からだはぼくの意しと反してどんどんとけていく。ぴんくのえきたいにかわっていく。おもいも、いしきも、すべてとけて――――

  ――――――――――――――――――――――

 また、ここか。
 ぼくは周りをみる。上には変わらず青と白。黒かった連結されたものは、金色に変わっている。今ならわかる。あれは壁だ。そして、大砲、ピンクの髪の女がいる塔、そして髭を生やした男性が頂上にいる塔が増えていた。他にも、用途のわからないものがたくさん増えている。
 ふと、視界の隅に何かが見えた。赤く、見覚えのあるそれをぼくは見て、記憶を掘り起こす。
 あれは炎だ。
 炎? 目を覚ました時に見えた炎、なのか?
 さらに目を凝らすと、炎の周りの芝は周りの芝より少し高い。あの黄色い男達はいないが、明らかに見覚えのあるものだった。
 もしかして、あれは――
 考えようとした刹那、背後から爆発音が聞こえた。そっちを見ると、いた。あの疎ましい黄色い男が。だが、それはすでに死んでいた。大砲の弾がめり込んでいて、見るも無残な死に様だった。
 突然、その死体は踏み潰された。見ると、見覚えのない者がいる。巨大な体の男だ。どうやら巨人が大挙して押し寄せてきているらしい。更にその巨人の背後には、羽の生えた女性が浮かんでいた。
 なんだ、あれは?
 巨人達がこちらの大砲を殴る。その巨人に、こちらの施設は容赦ない攻撃を加える。大砲、矢、巨大な弾、魔法のような攻撃、それらすべてがその巨人に集中する。だが、倒れない。目を凝らすと、巨人達は光っているように見える。光っている? 何故?
 その答えは簡単に見つかった。羽の生えた女性が、巨人達に光を飛ばしている。それが当たる度、大砲や矢による傷が癒えていく。いくらこちらが攻撃しても無駄だと言わんばかりに、傷がどんどん癒えていく。
 大砲が壊された。そして巨人はピンクの髪の女がいる塔に向かった。そこでぼくは理解する。
 ぼくらは、略奪されているんだ。
 巨人は無慈悲に攻撃を加えていく。どんどん塔は壊れていき、数秒で四散する。そしてまた次の施設を、そのまた次の施設を、次々と破壊していく。
 ぼくは、途轍もない恐怖を覚えた。僕の前を彼らは横切る。それは、とてつもなく大きい。そして羽の生えた女性も横切る。そして、最後の大砲を破壊する。
 攻撃できる施設を軒並み破壊した彼らは、近くにあった施設を順番に攻撃する。どんどん壊されていく。次々に。容赦なく。徹底的に。
 そしてぼくのいるところまで来た。
 殴られる。
 振動が伝わる。
 穴が開く。
 僕の体がバラバラになっていくのを感じた。ぼくというそん在が、いじできなくなっていく。意識もどんどん混だくし、うつろになっていき。
 ぼくはきえた。

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